世界初。ミュージカル
「イヴ・サンローラン」制作記者発表
フランスの偉大なオートクチュリエ、イヴ・サンローランの生涯が、このたび日本人スタッフとキャストによって、世界で初めてミュージカル化される。パリのピエール・べルジェ&サンローラン財団も協力する本作を、現代の日本のミュージカル界を代表するメンバーがどのように表現するか、見ものだ(2019年2月15日〜3月3日まで東京・よみうり大手町ホール、3月26日兵庫県立芸術文化センターにて上演予定)。
取材:小川 雅代
開幕に先立つ昨年10月、東京・南麻布のフランス大使館にて制作発表記者会見が行われた。ローラン・ヴィック駐日フランス大使は、「多くのフランス人にとって、イヴ・サンローランはエレガンスを象徴する存在。繊細で知性に溢れ、常に美を追求し、創造する人でありました。その生涯は、2014年に公開された2本のフランス映画(ピエール・ニネ主演「イヴ・サンローラン」と、ギャスパー・ウリエル主演「サンローラン」)を通して既にご存知の方も多いと思いますが、ミュージカル化は今回が初めてです。本作は、ピエール・ベルジェの著書「イヴ・サンローランへの手紙」(2010年ガリマール社出版、日本語版は2011年中央公論新社より発売)を土台に出来上がりました。本企画は、2017年9月に亡くなられたピエール・ベルジェ氏も生前にゴーサインを出しておられた貴重な作品です。より多くの日本の皆さまに、イヴ・サンローランを改めて知っていただき、彼の生涯において“創作”とは何であったか、また、フランスにおけるライフスタイルのあり方などを感じていただけたら幸いです」と挨拶。会見では、制作者を代表して演出家、作曲、衣装担当の3名が、続いて出演者を代表して6名が登壇し、本作にかける思いをそれぞれに語った後、テーマソングを披露した。
STAFF:
●演出家:荻田浩一
歴史的に偉大な功績を残したデザイナーの波乱万丈の人生を、本作を通してより多く浮かび上がらせていきたいと思います。サンローランは特にプレタポルテを率先して、服飾の歴史を変えた人です。その功績は、アルジェリア戦争や五月革命など、第二次大戦後のヨーロッパの歴史と大きく関わっていると思います。当時のフランスの政治文化と共に生まれたのがサンローランなのだ、ということを根幹にして作品構成をしたいと思っています。
またサンローランには、ドラッグやアルコールへの依存症といった、非常にダーティな部分やネガティブな部分を隠さずにオープンにする、純粋なところがあります。あまりにも繊細すぎる心と、溢れすぎる才能によって、心身共にすり減らしながら創作に生きた人だと思います。彼の心に潜む孤独と苦闘が、作品の最も大きなモチーフになります。
●音楽:斉藤恒芳
(記者会見の時点で)こんなに早く筆が進むのは初めてです。最近の流行であるジュークボックスミュージカルやカタログミュージカルといった現代的な雰囲気に、サンローランを象徴する1960年代調の音楽をミックスしながら、1曲1曲、楽しめるような音楽にしたいと思っています。
●衣装デザイン:朝月真次郎
演出家の荻田先生と音楽の斉藤さんと共に色々なプランを考えて、サンローランに恥じない衣装デザインを考案したいと思っています。私にとっては最後の作品、そのくらいの気持ちで取り組んでいます。
サンローランはプレタポルテ (高級既製服)を世に初めて流行させた人。私が大学卒業後に入社したアパレルメーカーでも、彼の創作は常にお手本でした。オートクチュールで自分の好きなお客様に高くお売りするのが主流の時代に、トレンチコート、サファリルックなど、本来は男性のために作られたワークウェアを女性のために、しかも既製服として初めて発売した、勇気あるデザイナーでした。日本の未来を担うデザイナーたちにも、サンローランは既製服の神様なのだということを、本作で改めて伝えたいと思います。
●サンローラン(ダブルキャスト):東山義久
まさか僕がサンローランを演じるとは夢にも思いませんでした。お話をいただいて最初にした事は、髪の毛をバッサリ切ったこと。まだまだ未熟な点は多々ありますが、スタッフ、共演者ともに素晴らしい方々に恵まれましたので、精一杯務めたいと思います。演出家の荻田先生とは以前からご一緒させてもらっていますが、今回は僕本来の“オラオラ感”を消して(笑)、繊細に、繊細に役作りするよう言われています。世界的なデザイナーであり、モード界の神と言われている人の持つ“光と闇”を僕なりに考え、海宝君とは異なるサンローラン像を演じられたらいいなと思っています。
●サンローラン(ダブルキャスト):海宝直人
イヴ・サンローランの人生をミュージカルにすると聞いた時から、どんなイメージでその世界観を表現すれば良いかと考えています。パリのサンローラン美術館を訪ね、様々な衣装や映像を実際に見てきました。彼の仕事場を再現したエリアでは、その独特のセンスに圧倒されました。以来、自分の中で膨らませてきた主人公の内面やパリの空気感を、音楽も交え、少しでも舞台で表現できたらと思っています。ダブルキャストの東山さんと僕とはキャラクターが全く異なるので、それぞれに違った角度からメッセージをお伝えすることになるでしょう。まずはイヴ・サンローランが似合う男になるよう頑張ります(笑)。
●ピエール・ベルジェ(ダブルキャスト、東京のみ):上原理生
イヴ・サンローランについて、名前は知っていましたが、子供の頃にデパートで目にしたブランドロゴのイメージが強くて、高級な服を扱うお店なんだろうなあ、自分が関わる機会はないだろうなあ、と思っていました。出演が決まって初めて、サンローランの傍にいたピエール・べルジェの存在を知り、その人物像にとても興味を持ちました。サンローラン同様にベルジェも、フランスが世界に誇る偉人ですから、失礼のないよう、敬意を持って誠実に役に向き合いたいと思います。
●ピエール・ベルジェ、クリスチャン・ディオール(共にダブルキャスト):大山真志
このたびピエール・ベルジェ役とクリスチャン・ディオール役とを演じる光栄にあずかりました。伝記映画やドキュメンタリーを観て、サンローランは栄光を手に入れた一方で、繊細で孤独な人だったと感じました。そんな彼をずっと支え続けてきたベルジェのように、僕もこの作品の支えになりたいと思います。
●クリスチャン・ディオール(ダブルキャスト):河原一馬
クリスチャン・ディオールという歴史的に素晴らしい人物を演じる幸運にあずかり、身が引き締まる思いです。サンローランにとって、生きること=デザインをすることで、そのために命を燃やしていた人だと思います。僕たちの世代にはハイブランドのイメージが強く、僕自身も大先輩から頂いたカードケースを持っている程度ですが、この機会に改めてイヴ・サンローランについて学び、彼の人生に欠かせない人物であるディオールの役作りに、真摯に向き合っていきたいと思います。
●ココ・シャネル、サンローランの母(二役):安寿ミラ
30年前からフランス好きの私がココ・シャネル役をやらせていただくというのは、本当に嬉しいことです。とても有名な方ですから、公の資料もたくさん残されているので、この機会にさらに見聞を広げて行きたいと思います。一方でサンローランのお母様は一般の方ですので、人物像を知る手立ては限られているのですが、少しでも役に立てばと、5月にフランスに行き、イヴ・サンローラン美術館でいろんな資料や映像を拝見してきました。日本のミュージカル界で最もスリリングな演出をなさる荻田さんと相談しながら、台本を読み、イメージで膨らませて役作りをしたいと思います。
◆イヴ・サンローラン
1936年フランス領アルジェリア生まれ。オートクチュリエを志し、10代でパリに出てクリスチャン・ディオールのアトリエに入社。ディオールが急逝した際、21歳の若さで後継デザイナーに抜擢され、コレクションデビュー。<トラペーズライン>を考案し、瞬く間に世界を魅了。その後、自身のオートクチュールメゾン「イヴ・サンローラン」を立ち上げ、1966年にはプレタポルテのブティック「イヴ・サンローラン リヴゴーシュ」を出店。時代の空気を巧みに先取りし、モンドリアン風ドレス、タキシード、パンツスーツ、サファリスーツなど、男性服を女性用に仕立て上げ、後世まで多方面に大きな影響を与えた。また、女優カトリーヌ・ドヌーヴら当時のセレブリティの衣装も数多く手がけた。2002年にデザイナーを引退し、2008年、癌のため71歳で逝去。生涯を通じて公私にわたりサンローラン氏を傍で支え続けた実業家ピエール・ベルジェ(2017年9は、「サンローランは常に“女性の解放”に大変関心を持っていた。20世紀後半に、社会の中で女性たちの生き方がどんどん変化していくさなかにあって、彼女たちと共に時代を伴走することを、ファッションを通じて表明した人」と評し、約半世紀におよぶ作品の保存を目的に「ピエール・ベルジェ イヴ・サンローラン財団」を設立、2017年には創作をより広く伝えるため、パリとマラケシュ(モロッコ)にイヴ・サンローランミュージアムをオープンした。
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